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患者さまへ

メトトレキサート(MTX)について

文責 北陸大学薬学部実践実学系 岡田 守弘

2023.04.04

コラム

  • 代表的なお薬:リウマトレックスカプセル2 mg

①お薬の特徴

メトトレキサート(以下、MTX)は関節リウマチと診断された患者さんへ一番初めに使用されることが多く、抗リウマチ薬の中では最も多くの患者さんに使われているお薬です。MTXの抗リウマチ薬としての主な作用は、体の中に存在している内因性炎症制御物質のアデノシンへMTXが積極的に働きかけて関節内の滑膜の炎症を鎮めると考えられています。薬の効き目は患者さんごとに多少異なりますが、使用開始から3-6週で痛みが和らぎ始め、12-24週でMTXの効果が最大となります。一般的に抗リウマチ薬の効果はゆっくりとでてくるため、2-3ヶ月を経過しないと分からないことが多いですが、MTXは他の抗リウマチ薬より早く効果がでてきます。また、MTXは7割くらいの患者さんで有効だと言われています。さらに、骨破壊を抑制する効果が確認されていることに加えて、効いていた薬が途中で効かなくなるようなエスケープ現象も起こりにくいことから、MTXは関節リウマチ治療の中心的薬剤として位置付けられています。このようなことから、MTXは最も頼りになるお薬という意味でアンカードラッグと呼ばれています。

②使用方法

MTXは内服と皮下注射が発売されています。一般的に1週間あたり6-8 mgの内服あるいは7.5 mgの皮下注射で開始されます。4週間を経過しても治療目標に達しないときは、内服では2-4 mgあるいは皮下注射では2.5 mgずつ増量します。効果が不十分であれば内服で最大16 mgあるいは皮下注射で最大15 mgまで増やすことができます。

内服のMTXは、1週間あたりの服用量が決まると、それを週に1回または2-3回に分割して、1-2日かけて12時間の間隔で服用します。毎日服用するお薬ではありませんので、必ず服用する曜日を決めておいてください。

皮下注射のMTXは、週に1回の頻度で注射します。自己注射も可能となっています。こちらも内服と同じく注射する曜日を決めておくとよいでしょう。

万が一、MTXをのみ忘れた場合や注射をうち忘れた場合でも慌てる必要はありません。なぜなら、1度くらい忘れても1週間程度であれば関節リウマチはほとんど悪くならないからです。ご存知の方も多いと思いますが、MTXはもともと抗がん剤として使用されていましたので、のみ忘れることやうち忘れることより、むしろ2回分をまとめて体に入れてしてしまう過量投与が危ないのです。したがって、のみ忘れてしまった場合やうち忘れてしまった場合でも、無理に補おうとせず、その分のお薬は別に保管しておいて、次回の受診の時に、余った分のお薬の数を主治医へ伝えて処方日数を調節してもらいましょう。

内服のMTXをのみ忘れた場合の一般的な対処方法としては、のみ忘れた分は服用せずに、当日の夕方や翌朝など次回の服用分から指示通りのんでください。決して2回分を一度にのまないでください。のみ忘れから数日が経過してしまいMTXを服用する曜日でなくなってしまった場合、その週は服用しないで、次の週の決められた曜日からいつもどおり服用してください。

次に、注射のMTXをうち忘れてしまった場合の一般的な対処方法としては、注射は1週間に一度だけですので、その週をとばして、次の週の決められた曜日からいつもどおり注射してください。

ただし、MTXののみ忘れやうち忘れの対処方法は主治医の判断により患者さんごとで異なる場合がありますので、あらかじめ主治医へどのようにすればよいのか確認しておくことをお勧めします。

③注意事項

妊娠または妊娠している可能性やその計画のある患者さん、そして、授乳中の患者さんはMTXを使用することができません。また、MTXの使用中は男女とも避妊が必要となります。挙児希望の場合は、MTXの投与を中断し、1月経周期は妊娠を避けるようにしてください。

MTXを開始して間もない時や増量してから1か月程度は口内炎、嘔気・嘔吐、下痢などの消化器症状や肝障害が現れやすくなりますので体調の変化にご注意ください。また、重篤な副作用として骨髄抑制、間質性肺炎、感染症、リンパ増殖性疾患等が生じることがありますので、定期的に受診して血液検査や胸部レントゲン検査を受けましょう。

MTXは免疫抑制薬に分類されており、体内で過剰に起こっている免疫反応を抑える反面、細菌やウイルスなどに対する抵抗力が弱くなります。したがって、日頃から人混みを避け、手洗いうがいをしっかり行うなど感染症対策を心掛けてください。また、感染症の予防や重篤化を防ぐためにワクチンを接種する方法もあります。現在、ワクチンの種類は大きく分けると生ワクチン(BCG、麻疹、風疹、水ぼうそう、おたふくかぜなど)、不活化ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹など)、そしてmRNAワクチン(新型コロナ)の3つがあります。生ワクチンは文字通り生きた細菌やウイルスを投与しますので、免疫抑制薬のMTXを使用している患者さんは接種を受けられませんが、不活化ワクチンやmRNAワクチンは接種を受けることができますので、主治医へお尋ねください。

④その他

MTXはビタミンB群の一種である葉酸と分子構造がとても類似しているため、消化器症状や肝障害の副作用は葉酸製剤を上手に服用することで予防が可能です。特に、1週間あたりMTXが8 mgを超える患者さんや腎機能がよくない患者さん、副作用の危険性が高くなる高齢の患者さんは葉酸製剤(代表的なお薬:フォリアミン錠5 mg)の服用が推奨されています。ただし、この葉酸製剤も1週間に一回の服用となります。その服用タイミングはMTXの服用を終えた曜日の翌日もしくは翌々日となります。お薬以外でも多量に葉酸を含有する青汁などの健康食品やクロレラなどの葉酸サプリメントがありますが、自己判断で摂取することは、MTXの抗リウマチ薬としての効果そのものが弱まってしまうので避けてください。また、ブロッコリー、焼きのり、レバー、抹茶など葉酸が多く含まれる食べ物でもMTXの効果に影響を及ぼすことがありますので過剰に摂取しないようにしてください。このように述べると葉酸摂取量が気になるところですが、食事については通常の葉酸摂取量であれば特に問題ありませんので、バランスのよい食事を楽しみましょう。